わしゃ、笑いの原点は落語にあると思う。それも古典落語じゃ!
しかし、悲しいことに今じゃ落語すら知らん奴がおる。
落語の奥の深さは、その行間にあるのじゃが、
ま〜、そんなことはいいわっ。大切なんは単純に楽しむことじゃ。
名作落語を短くまとめて、判りやすくしちょる。勿論、わしの独断と偏見の世界じゃ。

ゆっくり楽しんでゆけ!


<せんきんきのむし>
ちょっとHな噺を聞くのも知性が必要です。
なんたって想像力がいりますから。
  

医者が夢を見た。出てきたのは一匹の虫。夢なので人間の言葉でしゃべり、疝気の虫だと名乗る。
かねてから疝気の患者の治療に苦心していた医者が、どうしてお前たちは人間をそんなに苦しめるの
だと尋ねると、虫は自分達は人間を苦しめようとは思っていない。ただ、そばが大の好物なので体の中
にそばが入ってきたらそれを食べ、やたら元気いっぱいになって腹の中で飛んだりはねたり筋を引っ
張ったりする。それで、家主の人間が苦しむのだと答えた。

逆に疝気の虫の苦手は唐辛子で、これが体の中に入ってきたときは大急ぎで別荘へ逃げる。
虫の言
う別荘とは男のだいじな袋の部分のことだった。

これで医者は合点がいく。
「ははあ、それで疝気にかかったら、あそこがあんなにふくらむわけか」

そこで目が覚めた。

ほどなく往診の依頼。出かけてみるとこれが疝気の患者。医者は早速、夢の話を試そうと思いついた。
患者の妻に盛りそばの注文を頼み、唐辛子のたっぷり入った水をドンブリに一杯作らせる。
そば
がとどいたら、患者の口に箸を近づけながら妻が食べ、そばの匂いにつられて
別荘からはい出してき
た疝気の虫を、口までおびき出して外へつまみだし、
唐辛子水の中へ放り込んでしまおうという計画
だ。
注文のそばがとどき、患者の妻は医者に言われたとおり主人の口の脇でそばを食べ始めた。
主人
のほうは必死になってそばの匂いを吸い込む。

やがて、計画どおり別荘にいる疝気の虫たちが匂いにつられてはいだしてきた。
しかし、胃まであがっても匂いばかりでかんじんのそばがこない。
不思議に思った虫たちが喉から
口へあがってくると、そばは目の前の妻の口へどんどんと
入っていくのが見える。

「あっちだ、みんな向こうへいくぞ」

医者がつまみ出す間もなく、虫たちは主人の口から妻の口へ飛び移って腹の中へ。
妻の腹の中でそ
ばを食って元気いっぱい暴れだした。
こうなると主人は虫がいなくなって楽になったが、今度は妻が腹をおさえて苦しみだした。
びっく
りした医者が、あわててドンブリの唐辛子水を飲むように妻にすすめた。
上機嫌になっていた疝気の虫たちの上へ唐辛子水がどっとなだれ落ちる。
驚いた虫がいつものよう
に別荘へいこうとおおあわて。

「うわわ、大変だ。唐辛子が入ってきた。別荘だ、別荘へ逃げろ。別荘だ、別荘、別荘。
あらら、別荘がない…」

<しながわしんじゅう>
岡場所とは公認の吉原以外の歓楽街のこと。
これは品川を舞台にした噺。
   
品川新宿の女郎屋でナンバーワンのお染。
しかし、歳とともに客がだんだんつかなくなり、若い女郎にまで金のないことを馬鹿にされる始末。
いっそうのこと死んでしまおうと考えた。ただ、見栄があるから金がなくて
死んだなどとは思われた
くない。
そこで、誰か相手を見つけて心中しようという気になった。で、選んだのが金蔵という
独り者のお
人好し。お染から手紙をもらった金蔵は、すぐに飛んできた。

四十両の金ができないから死にたい、一緒に死んでくれと頼まれた金蔵。
自分の力ではどうにもな
らない金だから、わりにあっさりと心中の相手を引き受ける。
決行は明晩ということになり、お染は
気が変わらぬようにと、その晩はひときわ濃厚に金蔵の相手をした。
翌日、家の始末をし、世話になっている親分の家へも挨拶をすませた金蔵が、夕方、品川に戻ってきた。
ところが心中用に用意した刃物を親分の家へ忘れたことに気づく。

そこで、裏の海に飛び込もうということになった。
金蔵が先に海に落ちたところで、店からお染を
呼ぶ声。なじみの旦那が金を持ってきてくれたのだ。
金ができたから死ぬことはないと言われたお染

「金さん、堪忍してね」
と、あっさり店に引き返してしまった。

海の中にいた金蔵、くやしまぎれに足を伸ばすとなんと膝までしか水がない。
遠浅で死ぬどころか
着物がビシャビシャになって風邪を引いただけ。
岸へあがった金蔵は、帰る家もないので親分の家へ
行くことにした。
濡れネズミなので大きな犬に吠えつかれたりしながら、やっとの思いで親分の家に着き、
表戸をド
ンドンと叩いた。間の悪いことに家の中では花札賭博の真っ最中、
手入れと勘違いして上を下への大
騒ぎになる。金蔵と判って安心した親分。
話を聞いて仕返しの芝居を思いついた。まず、金蔵がお染
のところへ生き返ったと顔をだす。
そのあとから親分がいき、夜釣りで金蔵の死体がかかったからお
通夜にきてくれと言う。

「お染はそんなはずはないだろうという。で、通夜にいくと部屋に位牌があるって寸法だ」

たくらみにまんまと引っかかったお染。
親分に金蔵を成仏させるには髪を切れと言われ、仕方なく髪を切って差し出す。
そこへ隠れていた金蔵が出てきて、

「仕返しだい」
「ちくしょう、髪を切らして、明日から商売ができないじゃないか」

「へん、あんまり客を釣るから比丘(魚のビクと尼の比丘をかけて)にされたんだ」

<こわかれ>
受験戦争のない時代、子供は何を見て学んだでしょう。
それはなんといっても親の背中だったんです。
   
大工の熊五郎は、葬式の帰りに吉原で居続けをしたあげく、四日目にやっと家に帰った。
あやま
るどころか女郎ののろけ話で、あきれた女房は子供を連れて家を出てしまう。
(上、中、下に分けら
れるほどの長い話で、ここで紹介するのは下の部分。
 吉原で居続けをする上の部分だと「おこわ」と
いう噺になる)

熊はその晩から吉原へ通いづめ。年季明けの女を家へ引っ張ってきて後妻にするが、先妻とは大違
い。
朝寝はするし飯は作らない。そのうち女は出て行き、熊は性根を入れ替えて仕事に精をだしはじ
めた。
三年がたち、生活は楽になった。相変わらず独り身を続けていた熊は、
仕事先で偶然に別れた子供
の亀吉と会う。すっかり大きくなった息子に、母親のことを聞くと、
再婚もせずに女手一つでがんば
っている様子。

亀吉の話から母子で貧乏暮らしをしていることを知った熊は、明日二人で鰻を食べに行こうと誘い
小遣いをやってから
「このことは、おっかさんにはないしょにしろ」
と、言い聞かせて別れた。
   
はしゃぎながら家に帰った亀吉は、熊からもらった金を母親に見つかってしまう。
なんとかごまか
そうとするが、母親がその金を亀吉が盗んだものと思い込み、
金槌でぶとうとするので、とうとう父
からもらったと亀吉は白状し、鰻屋に誘われていることも話した。
なぜか母親は怒りもせず、亀吉か
ら熊の様子を聞いてうれしそうだ。

翌日、熊と亀吉が約束どおり鰻屋の二階で鰻をたべていると、
鰻屋までついてきて外でウロウロし
ていた母親が我慢出来ずにはいってきた。
ひさしぶりの親子三人水入らず。両親ともうれしくてたまらないのに素直になれない。
熊はへども
どしながら亀吉と出会ったいきさつを何度も繰り返すのに、そのおかしさに気がつかない。
これまた
亀吉が冷やかしてまぜっかえす。

場をとりつくろおうとする息子の努力でようやく落ち着いた熊は、
亀吉をよくここまで育ててくれ
たと女房に礼を言い、もう一度よりを戻してくれないかと頼んだ。
その言葉を待っていた母親は涙声になりながら

「うれしいよ、お前さん。この子がいく先どんなに幸せになるかもしれない。
 三年ぶりに
会って、元のようになれるのもこの子があればこそ。子供は夫婦のかすがいですね」

すると亀吉が、

「あたいがかすがいだって。どうりで昨日、金槌でぶつと言った」

<かみいれ>
男は度胸、女は愛敬は真っ赤な嘘。
度胸も愛敬もあるのが女性です、 少なくとも落語では。 
   
新吉が、世話になっている旦那の女房といい仲になってしまった。
その晩も旦那の留守をいいこ
とに家にあがりこんでいる。
小心者でビクビクしている新吉とは反対に、女房は大胆。
旦那は碁を打ちにいっているから今夜は
帰ってこない、泊まっていってもいいとしきりに粉をかける。
だんだんと新吉その気になってきたと
ころで、表の戸がドンドン。意外にも早く旦那が帰ってきた。

 「こっち。裏から出て」
   
かろうじて裏口から見つからずに逃げた新吉だったが、
歩いているうちに紙入れを忘れたことに気
がついた。
上等な紙入れで、買ったとき旦那にも見てもらったから、一目で新吉の物だとわかってし
まう。
おまけに中には、おかみさんからもらった恋文まで挟んである。
   
このまま遠くへ逃げてしまおうかと考えた新吉、ひょっとしたらおかみさんが先に気づいて
隠して
くれたかもしれないと思い直し、翌朝、確かめにいくことにした。
夜が明けるのを待ちかねて旦那の家へ。
   
 「おお、新吉か早いな。まああがれ」

おかしい、旦那は機嫌がよさそうだ。しかし、そのふりをしているのかも。
心の中であれこれ思い悩んでいるのが新吉の顔に出た。
   
 「どおした、顔色が悪いぞ」
   
新吉は女のことでまずくなったので、しばらく旅に出ようと思っていると打ち明けた。
旦那は、無
理もないことだと新吉をはげまし、
ただし他人の女房だけには手を出しちゃいけないと釘をさした。

 「じつは、その、それなんで」

腹を決めた新吉は、自分とおかみさんのことを話すが、
旦那はよその家のことだと思って聞いている。
   
 「向こうに知れたのか」
   
知れたかどうかまだわからない。しかし、家に紙入れを忘れてきたので心配している。
と、ここまで聞いた旦那、あの紙入れを忘れてきたのかと納得し、
奥から出てきた女房に、
   
 「おい、おかみさんからの手紙を入れた紙入れを忘れてきたんだとさ」
   
女房は平気な顔で、
   
 「いやだよ新さん、どうせ旦那の留守に男を引き入れようというくらいの女だもの、
  
紙入れなんかちゃんと隠してあるさ」
   
旦那もまったくそのとおりという口調で

 「それに主人が紙入れを見たって、自分の女房をとられるようなヤツだ。
気がつくまい」
<めぐろのさんま>
昔の人は季節の「旬」をだいじにしたものです。
花鳥風月を忘れた人間は、パサついてます。
   
なんにもすることがないのが、昔のお殿様という商売。
今日も供の者を引き連れて狩りにお出かけ。
場所は目黒。東京になってからも競馬場があったくらいのところだから、
その昔はもっと草深いと
ころだった。

さんざん狩りを楽しんだが、そのうちお腹がすいてきた。
何か食するものをとお望みだが、あいにくランチの用意がない。
誰かが用意しているだろう、という
大企業病にお供の全員がかかっていたのだ。
   
 「何もないのか、それでは買うてまいれ」

と言われても、店もない。
そこへなんとも言えぬいい香りがプーンと流れてきた。

 「これこれ、このよい匂いはなんじゃ」

時は秋。近くの農家で脂のたっぷりのったサンマを焼いているらしい。

 「殿、あれは下々の者が食すサンマという下賎な魚にございます。
  お上が召し上がるようなもので
はございません」

そう言われても空きっ腹にいい匂いがしみ通って我慢できない。

 「よい、下々の食するものがわからねば、上に立つ者とは言えぬ。
  苦しゅうない、サンマをこれへ 
これ、サンマを持て〜っ」

さて食べたサンマのおいしいこと、おいしいこと。さんざん食べて大満足。
   
 「予は満足じゃ。帰るぞ」
   
お城に帰った殿様はすっかりサンマに病みつきになってしまった。夢に見るまでサンマの姿、その匂い。
しかし、格式高い城内ではサンマが食膳に登場するはずもない。
そこはお殿様だから、権力でサンマを食べると言明した。
こうなるとお上あっての家来だから、言
いつけに従うしかない。
だが、だいぶ日がたっていてサンマのシーズンは終わっている。
サンマ捜索
隊を組織してやっと一匹見つけてきた。これを料理番が丁重に料理。
ご重役がそばから
   

 「熱いとやけどをめされる」
 
「そこの小骨が喉に刺さっては」

と口を出す。毛抜きで小骨を抜いて

 「殿、サンマにございます」
 
「これがサンマか?」 
形は以前のものと似ても似つかないが、かすかに匂いが残っている。
 
「サンマちゃん、元気だった?」
と、一口食べたが、これが超まずい。
   
 「これは、どこのサンマじゃ」
 
「品川沖でとれたものにございます」
 
「なに、品川。品川はいかん。サンマは目黒に限る」